23-05 | 思い込みから解放された—Cさんの物語(前編)
Cさんは28歳の営業職。仕事はできる方だ。数字も取れる。でも、あるときから「もう続けられない」という感覚に襲われた。
理由は明確だった。彼は「営業職は自分に向いていない」と信じていたのだ。
正確には、信じさせられていた。10年前、学生時代の彼は起業に挑戦した。その時の事業パートナーに「お前は営業には向かない。営業に必要な『図々しさ』がお前にはない」と何度も言われたのだ。当時のCさんは、その言葉を反論できず、受け入れてしまった。
その後、何年も経って、仕事として営業をしなければならない状況になった。でも、心の底には「自分は営業に向いていない」という信念が居座っていた。だから、営業活動をするときも、その思い込みの枠の中で行動していた。それは、自分を矮小化した営業だ。本来できるはずのことまで、できないと思い込んでいた。
「毎日、その信念と戦っています」とCさんは語った。
「数字が取れるたびに『たまたまだ』と思う。褒められても『どうせ長続きしない』と思う。一度、その思い込みの枠から抜けたいんです」
催眠セッションは、その思い込みの根を掘り起こすことから始まった。
過去のセッションで、Cさんはその起業時代の場面に戻った。オフィスでパートナーに詰められている情景。自分がどんなに工夫しても、相手は「それは営業じゃない」と否定する。その繰り返しの中で、彼は「自分は営業に向かない人間なんだ」という烙印を押されてしまった。
催眠状態のなかで、僕はCさんに問いかけた。
「その時のあなたは、どう感じていましたか」
「悔しかったです。でも、同時に『彼の言葉が正しいのかもしれない』と思っていました。彼は起業の先輩で、僕より詳しいと思っていたから」
「では、今のあなたなら、その時の自分に何と言いますか」
催眠状態のCさんは、時空を超えて、かつての自分に語りかけ始めた。
「お前は悪くない。その人の一意見だ。それがお前のすべてじゃない。むしろ、あの時のお前は工夫してた。試行錯誤してた。その過程こそが営業なんだ。他人の評価で、自分を定義するな」
涙が止まらなかった。10年も前の評価が、ここまで人生を縛っていたのか。その事実に直面することで、Cさんは初めて「それは思い込みに過ぎない」と理解し始めた。