23-02 | 「支配される恐れ」を超えて—Aさんの物語(後編)
セッションから2週間後、Aさんからメールが届いた。「何かが変わった気がします。眠れるようになりました」
それから3ヶ月のあいだ、月2回のセッションを重ねた。毎回、異なるシナリオで、彼は自分自身と対話を続けた。父親との関係性を再定義し、「支配」と「愛情」の違いを腹に落とし、自分自身の判断の正当性を回復していった。
3ヶ月後のAさんは、見違えるようだった。
会社の会議では、自分の意見をはっきり言う。そして、その意見が採用されなくても、動揺しない。なぜなら、もう「判断の権を誰かに預けている」という感覚がないからだ。
家族との意思決定も変わった。以前なら、妻の意見に無条件に従い、その後で心の中で葛藤していた。今は、意見が異なれば、それについて話し合う。対等な二人の人間として、決定を共にする。そこに恐れはない。
「親父との関係も変わったんですよ」とAさんは笑顔で言った。
「最近、父さんと食事をしたんです。昔のように『これはどうすべきか』と相談することはなくなりました。その代わり、父さんの人生の話を聞くようになったんです。すると、父さんだって完璧じゃなくて、同じように迷いながら生きてたんだってわかった。親子として初めて、対等な関係になった気がするんです」
Aさんの物語が示すのは、催眠セラピーの本質的な力だ。それは「恐れ」を消し去ることではなく、恐れの根にある物語を見つめ直し、新しい解釈を手に入れることだ。
かつてAさんを支配していた「支配される恐れ」は、実は子ども時代の彼が自分で作った生存戦略だった。その環境では、それは正しい対応だったのだ。ただ、大人になった今、その戦略はもう必要ない。むしろ、足を引っ張る。
催眠状態で、彼は「その戦略をもう手放しても大丈夫だ」という経験を積み重ねた。そして、何度も何度も新しい解釈を脳に刻み込んだ。結果、彼の行動や感情が変わった。
半年後、Aさんからの報告は「昇進した」というものだった。
「不思議ですね。何も外的な状況は変わらないのに、同じ人間関係も、同じ職場も。でも、僕の選択が変われば、それまで見えなかった道が見えるんです。上司との関係も良くなって、そしたら自然と昇進へのチャンスが巡ってきた」
それが催眠の真実だ。不思議な力で外の世界を変えるのではなく、内の世界を変えることで、自動的に外の世界の見え方が変わり、その結果、現実が変わっていく。
Aさんはもう、誰かに支配されるという恐れから自由になっていた。その代わりに、自分の人生を主体的に選択する喜びを手に入れていた。