潜在意識・催眠術・本当の自分

13-04 | PTSD・トラウマレベルの傷との向き合い方

はじめに

これまで、この本では「日常的なレベルの思い込みやトラウマ」について、扱ってきました。

でも、中には「PTSD」や「複雑なトラウマ」という、より深刻なレベルの傷を持つ人もいます。

この記事では「トラウマレベルが『より深刻』な場合」に、どう向き合うのかについて、見ていきます。

PTSDとは

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、心理学的な診断名です。

通常、以下の特徴があります:

  1. 侵入症状:トラウマ的な出来事の記憶が、勝手に思い浮かぶ、フラッシュバック(その時代に戻った感覚)が起こる
  2. 回避症状:トラウマを思い出させるものを避ける、感情を切り離す
  3. 否定的な認知:「自分は悪い」「世界は危険」という思い込みが強化される
  4. 過覚醒症状:常に警戒状態にある、些細なことで驚く、睡眠障害

PTSDは「トラウマの処理が行われていない状態」です。

つまり「その出来事が『過去のこと』として文脈化されておらず『現在進行形』の危険として、神経系が認識し続けている」状態なんです。

トラウマレベルの傷の特徴

より深刻なレベルのトラウマには、いくつかの特徴があります。

特徴1:単一の出来事ではなく、長期的

PTSD的なトラウマは、時に「一度の大きな出来事」から生じます。

でも「複雑なトラウマ」は「長期的な虐待、ネグレクト、支配的な関係」から生じることが多いです。

その場合「何が『トラウマ』なのか」を特定することさえ難しいんです。

「この出来事」というより「この環境全体」がトラウマになっているから。

特徴2:神経系全体への影響

深刻なトラウマは「思考」だけではなく「神経系全体」に影響を与えます。

その結果「常に交感神経が優位」という状態になり、その人は「常に『戦闘状態』にある」という神経学的な変化が起こります。

特徴3:自己感覚の崩壊

深刻なトラウマは「自分の身体や心が『自分のもの』であるという感覚」を奪うことがあります。

この現象を「解離(ディソシエーション)」と呼びます。

その結果「自分の身体が『他人のもの』のように感じられる」という奇異な状態が起こります。

トラウマレベルの傷に対するアプローチ

重度のトラウマに対しては「軽度のトラウマ」とは異なるアプローチが必要です。

アプローチ1:セーフティとスタビリティの確立

重度のトラウマを扱う場合「いきなりトラウマに向き合う」ことは危険です。

むしろ「まず『安全感』と『安定性』を作ること」が最優先です。

つまり「この環境は安全だ」「この人は信頼できる」という感覚を、潜在意識に植え付けることから始まるんです。

アプローチ2:段階的な「脱感作」

トラウマに対する反応を「段階的に」弱めていくプロセスです。

例えば「戦争のトラウマを持つ人」が「いきなり『戦場に戻りなさい』」と言われたら、かえって悪化します。

代わりに「段階的に」その刺激に慣れさせていく(例えば、その音を小さな音量から始める)という方法を取ります。

アプローチ3:「語り直し」

トラウマ的な出来事を「語り直す」というプロセスです。

つまり「その出来事は『現在の脅威』ではなく『過去の出来事』である」という「時間軸の位置づけ」を、潜在意識に伝える。

その結果「神経系が『あ、これは今起きているわけではない』と認識」し、過覚醒が落ち着き始めるんです。

実例:PTSD的なトラウマからの回復

鈴木さん(35才、男性)は「3年前に重い事故に遭遇」しました。

その事故で「大切な友人を失う」という経験をしたんです。

その後、鈴木さんは「典型的なPTSD症状」を示すようになりました:

  • 運転中に突然「事故の光景」がフラッシュバックされる
  • 夜眠ることができない
  • 車に乗ること自体を避ける
  • 常に「次に何か悪いことが起こるんじゃないか」という不安を持つ

催眠セッションでの取り組み:

段階1:安全感の確立(最初の3セッション)

まず「催眠状態は安全だ」「ここは安全な場所だ」というメッセージが何度も伝えられました。

セラピストとの信頼関係も重要です。

段階2:神経系の鎮静化(セッション4-10)

催眠の中で「深い呼吸」「身体の弛緩」といったテクニックを繰り返すことで「交感神経が優位な状態」を「副交感神経が優位な状態」に切り替える練習。

段階3:事故場面の「時間軸の位置づけ」(セッション11-15)

催眠の中で「その事故は『3年前』に起きた」「今は『安全』だ」という「時間的な距離感」を潜在意識に伝えるワーク。

その結果「事故の記憶は『現在の脅威』ではなく『過去の経験』として再文脈化される」んです。

結果

3ヶ月後、鈴木さんは「運転中にフラッシュバックが起こることは少なくなった」と報告しました。

完全に「治った」というわけではありません。でも「その出来事を『過去として』扱えるようになった」んです。

複雑なトラウマと「統合」

より複雑なトラウマ(例えば「幼少期の長期的な虐待」など)の場合、回復のプロセスは「より長い時間」を必要とします。

そして「トラウマとの『統合』」というアプローチが重要になってきます。

「統合」とは「トラウマを『なかったこと』にするのではなく『自分の人生の一部として組み込む』」ということです。

つまり「その経験は『悪い経験』だった。でも『今の自分』はその経験を通じて『生き残り』『成長した』」という物語を構築すること。

その物語を持つことで「人生が『トラウマに支配されている』状態から『トラウマを抱えながら、自分の人生を生きている』状態」へシフトするんです。

セルフワーク:あなたのトラウマの段階を知る

紙とペンを用意してください。

質問1:あなたのトラウマは、どのレベルですか?

  • 「日常的な心理的ストレス」から生じている?
  • 「単一の大きな出来事」から生じている?
  • 「長期的な虐待やネグレクト」から生じている?

質問2:そのトラウマの症状は、どのようなものですか?

  • フラッシュバックがありますか?
  • 回避症状(その状況を避ける)がありますか?
  • 過覚醒症状(常に警戒状態)がありますか?
  • 解離症状(身体や心が『自分のもの』でない感覚)がありますか?

質問3:あなたは「対処できているのか」または「専門家の助けが必要か」

これは正直に自問してください。

重度のトラウマに関しては「セルフワークだけでは対応できない」場合があります。

その場合「専門家(心理士、医師、催眠セラピスト)の助けが必要」です。

重度のトラウマと催眠セッション

重度のトラウマを持つ人が、催眠セッションを受ける場合「いくつかの重要なポイント」があります:

  1. セラピストの資格と経験が重要:重度のトラウマは「訓練を受けたセラピスト」にしか対応できません。
  2. 安全性の確保:セッション中、常に「安全な場所へ戻る」というテクニックを用いる必要があります。
  3. 時間がかかる:重度のトラウマの回復は「時間が必要」です。数回のセッションでは足りません。
  4. 医学的な監視も必要な場合がある:場合によっては「医師や精神科医との並行」が必要です。

まとめ

PTSD・トラウマレベルの傷との向き合い方:

  1. 重度のトラウマは『神経系全体』に影響を与える
  2. 回復には『安全感の確立』『段階的な脱感作』『時間軸の位置づけ』が必要
  3. 複雑なトラウマは『統合』というアプローチが有効
  4. 重度のトラウマは『専門家の助け』が必須
  5. 催眠セッションは『有効』だが『訓練されたセラピスト』による『時間をかけた』対応が必要

次の記事では「日常的な傷」について見ていきます。つまり「大きなトラウマとしては認識されていないけど『積み重なる小さな傷』」についてです。