12-05 | 無意識的自己催眠から目覚める
はじめに
ここまで、この章では、思い込みの形成メカニズムから、それが世代間で継承され、毎日の自動思考ループになるという、その全体的な「カラクリ」を見てきました。
この最後の記事では、その「カラクリ」から「目覚める」—つまり、無意識的な自己催眠状態から、意識的に脱出するプロセスについて、見ていきます。
「催眠状態にある」ことへの気づき
最初のステップは、実は「気づき」です。
多くの人は、自分が「催眠状態にある」ことに気づきません。
毎日、同じ思考を繰り返し、同じ行動をパターン化させ、同じ結果を再現し続けていても「これが人生だ」「これが現実だ」と思い込んでいるんです。
でも、実は、それは「催眠状態」です。
その「催眠状態」から目覚めるためには、まず「あ、自分は催眠状態にある」という認識が必要なんです。
「気づき」の瞬間
その「気づき」は、通常、何らかの「違和感」や「疑問」から始まります。
例えば:
「なんで、俺はいつもこんなことで悩んでるんだろう」 「この人生、本当に自分の選択なんだろうか」 「毎年、同じことの繰り返しだな」 「何か、おかしい」
その「何か、おかしい」という違和感が、「催眠状態」から目覚めるための、最初の信号なんです。
その信号に気づくことが、大切です。
催眠状態の「証拠」を探す
その違和感に気づいたら、次のステップは、その催眠状態の「証拠」を、意識的に探すことです。
つまり「自分は、本当に、どんな『自動思考』を繰り返しているのか」を、丹念に観察することです。
これは「マインドフルネス」に近い作業です。
ただ、単に「観察」するのではなく「その観察から『気づく』ことが目的なんです。
例えば:
朝、目を覚めた瞬間から、その人の心に「今日も何か悪いことが起こるんじゃないか」という思考が浮かぶ。
その人がこれまで気づかなかったのは「それが『思考』だ」ということです。
その人は「それが『現実』だ」と思ってました。
でも「朝、目を覚めた瞬間に『今日も何か悪いことが起こるんじゃないか』という『思考』が浮かぶ」—これは「思考」であって「現実」ではなく、また、その思考は「自動的に」浮かんでいるものです。
その自動的に浮かぶ思考が「現実だ」と信じ続けることが「催眠状態」なわけです。
「古い映画を見ている」という認識
ここで、面白い比喩があります。
その人の「自動思考」は、実は「古い映画を何度も見ている」ようなものです。
その映画は「子供時代に撮影された古い映画」です。
その映画では「主人公(つまり、その人)は失敗する」「主人公は愛されない」「主人公は十分ではない」という「ストーリー」が展開します。
その人は、その映画を、毎日、何度も、見ている。
でも「映画を見ているんだ」という認識がないから「これが現実だ」と思い込んでしまっている。
その認識が変わることが「目覚める」ということなんです。
つまり「あ、自分は『古い映画』を見てるんだ。これは『現実』ではなく『映画』なんだ」という気づき。
その気づきが起こった時点で、その人は、その映画を「見続けること」を「選択」できるようになります。
あるいは「新しい映画を作ること」を選択できるようになるわけです。
催眠から目覚めるための具体的ステップ
では、その「目覚め」は、どうやって、起こるのか。
いくつかの段階があります。
段階1:自動思考の「記録」
朝から晩まで、その人が、心に浮かぶ「自動思考」を、記録します。
手帳に書く。スマートフォンにメモする。
その記録を、一週間、続けてください。
その結果「あ、同じ思考が何度も何度も繰り返されている」という認識が、生まれます。
段階2:「思考」と「事実」の区別
その記録された「思考」から「これは『思考』であって『事実』ではない」ということを、意識的に認識します。
例えば「自分は人間関係が下手だ」という思考が、毎日、浮かぶ。
でも「それは『思考』だ。実際に、自分は人間関係が下手なのか?」と問う。
実際には、友人がいるかもしれません。同僚と良い関係を持っているかもしれません。
つまり「『自分は人間関係が下手だ』という『思考』」と「実際の『人間関係の能力』」は、別のものなんだ、ということに気づくわけです。
段階3:思考を「選択する」力
段階2までで「その思考は『真実』ではなく『思考』だ」と気づきました。
その後「その思考が浮かんだ時に、別の選択をする」という意識的な行動が、起こり始めます。
例えば「自分は人間関係が下手だ」という思考が浮かんだ時に「そうだね。でも、それは『思考』だ。実際には、自分は人間関係を上手にできる可能性を持ってる」と言い聞かせるんです。
これは「ポジティブシンキング」ではなく「思考の選択」です。
段階4:新しい「シーン」の体験
その思考に基づいた「古い行動パターン」ではなく「新しい行動」を、意識的に選択します。
例えば「人間関係が下手だ」という思考に基づいて「人付き合いを避ける」という古い行動パターンではなく「人付き合いをしてみる」という新しい行動を選択するんです。
その新しい行動の体験が、新しい「シーン」を作ります。
その新しいシーンが、潜在意識に新しいデータをもたらし「あ、人間関係って、実は悪くないじゃん」という学習が起こり始めるわけです。
実例:催眠から目覚める女性
高橋さん(40才、独身、営業)の「目覚め」のプロセスを追跡してみましょう。
目覚める前
高橋さんは、40才になっても、独身でした。その理由は、簡単だと思っていました:
「自分は、恋愛ができない女だから」
その思考が、毎日、浮かんでいました。
誰かから好意を持たれても「どうせ、すぐに幻滅される」と思って、相手を遠ざけていました。
その結果「やっぱり、自分は恋愛ができない」という「証拠」が、何度も、何度も、作られていったわけです。
目覚めのきっかけ
ある時、友人が「高橋さんは、恋愛について『難しすぎる顔』をしている。もっと簡単に考えたら?」と言いました。
その言葉が、高橋さんの中に「違和感」を生み出しました。
「難しすぎい顔?」「簡単?」
そこから「あ、自分は『恋愛はできない』という『思考』で、人生を見てるのか」という気づきが始まったんです。
記録の開始
その後、高橋さんは「自分が恋愛について、どんな『思考』を持ってるのか」記録を始めました。
1日で、こんなに多くの「恋愛に関するネガティブ思考」が浮かんでいるのか、と驚きました:
- 「どうせ、自分を好きになるような人はいない」
- 「恋愛は、自分に不可能だ」
- 「結婚できない女だ」
- 「30代の独身女性は、市場価値がない」
思考と事実の区別
その思考を観察していく過程で、高橋さんは気づきました:
「あ、誰かが『好き』と言ってくれたのに、自分は『どうせ』と否定してた」 「自分の『思考』が『事実』だと思い込んでた」
新しい行動の選択
その気づきから「では、次に好意を持たれたら、どうしてみようか」と、意識的に考え始めたんです。
そして、その後、誰かが好意を示してくれた時「いつもの『どうせ』という思考が浮かんだけど、今回は別の行動をしてみよう」と決定したんです。
その新しい行動から「あ、人間関係って、自分が思ってるほど、悪くないじゃん」という新しい体験が生まれたわけです。
今
高橋さんが「恋愛ができない女」という催眠状態から「目覚めて」から、彼女の人生は、変わり始めました。
完璧に「恋愛が上手になった」わけではありません。
でも「自分は恋愛ができる」という、新しい認識に基づいて、新しい選択ができるようになったんです。
セルフワーク:催眠から目覚めるプロセスの実行
紙とペンを用意してください。
ステップ1:あなたの「古い映画」を見つける
あなたが「毎日、何度も見ている『古い映画』」は、何ですか?
その映画のタイトルは?その映画では「何が繰り返されている」ですか?
ステップ2:その「映画」から一日の「思考」を記録する
その古い映画に関連する思考が「明日一日、自分の心に、何度浮かぶか」記録してください。
朝から寝るまで。できるだけ具体的に。
ステップ3:その「思考」と「事実」の区別をする
記録された各「思考」について「これは『思考』であって『事実』なのか」と問い直してください。
実際の「事実」はどうでしょう?その思考に矛盾する「事実」はありませんか?
ステップ4:「新しい映画」を想像する
もし「古い映画」ではなく「新しい映画」を作るとしたら、その映画はどんなストーリーですか?
その新しいストーリーでは「あなたは何をしていますか?」「何が起きていますか?」
ステップ5:その「新しい映画」の「シーン」を一つ、実際に体験する
その新しいストーリーの中から「明日、一つのシーンを実行する」ことを決めてください。
例えば「恋愛映画」なら「誰かの好意に『どうせ』で応じず、オープンに対話してみる」
その「新しい体験」が「新しい学習」を生み出し、催眠状態からの「目覚め」が加速するんです。
催眠セッションにおける「目覚めの加速」
これらのセルフワークは「自分で、自分の催眠状態から目覚めるプロセス」です。
でも、プロの催眠セラピストとのセッションを通じることで、このプロセスは「加速」します。
なぜなら「古い映画」を「新しい映画」に「上書き」するのが、催眠の深い状態では、より効率的だからです。
セッションの中で、セラピストと共に、あなたは:
- 古い思考パターンを「見つめる」
- それが「思考」であって「真実」ではないことを「感じる」
- 新しい「可能性」を「感じる」
- その新しい可能性の中で「新しい自分」を「体験する」
これらが、催眠の深い状態で、感覚的に、起こるんです。
その体験が、潜在意識に「新しいプログラム」をインストールするわけです。
まとめ
無意識的自己催眠から目覚めるプロセス:
- 「何か、おかしい」という違和感に気づくことが、最初のステップ
- 「自分は催眠状態にある」という認識が生まれる
- 「古い思考」を記録し、それが「思考」であって「事実」ではないと気づく
- 新しい「選択」と「行動」を意識的に実行する
- その新しい体験から「新しい学習」が生まれ、催眠状態が解かれていく
これで、第12章は終わります。
次の第13章では、このメンタルの傷をさらに深く掘り下げ「どう回復するのか」という、実践的な癒しのプロセスについて、見ていきます。