12-04 | 負の自動思考ループ—催眠的な反復パターン
はじめに
朝、目を覚ました時から、その人の心の中では、自動的に、思考が流れ始めます。
「あ、今日も〇〇をしなきゃ」 「また失敗するんじゃないか」 「自分は〇〇だから、これはできない」
こういった「自動思考」は、通常、意識的には捉えられていません。
でも、その自動思考が、その人の一日を支配し、その人の人生を方向づけているんです。
自動思考とは
「自動思考」というのは、ある状況に対して、意識的な努力なしに、自動的に浮かぶ思考のことです。
これは、全ての人に、起こります。
例えば、誰かが、あなたを横目で見た場合:
その状況から、あなたの脳は「この人は、自分を批判している」という思考を、自動的に浮かべるかもしれません。
でも、その思考は「自動的に」浮かぶもので、あなたが「意識的に」作ったものではないんです。
実際には「単に、かゆくて、目をこすっただけ」かもしれません。
でも、その瞬間に「この人は自分を批判している」という思考が浮かべば、その人は、その思考に基づいて、行動し、感情を持つようになるわけです。
ネガティブな自動思考の「回路」
ここで重要なのは、その自動思考の「回路」が、子供時代に、形成されているということです。
子供時代のトラウマや思い込みから、その人の脳は「危機察知回路」を作り出すんです。
つまり「この世界は危険だ」「この状況では何か悪いことが起こる可能性がある」という、その人の神経系を、常に「警戒状態」に置く回路です。
その回路が作られると、その人は、日常的な状況でさえ、その回路が自動的に発火し、ネガティブな解釈をしてしまうようになります。
例えば:
状況:上司が会議中に黙った
危機察知回路が作られていない人:「上司は、今、何か考えているんだろう」と、中立的に解釈します。
危機察知回路が作られている人:「あ、上司は、自分に不満を持っているんだ。クビになるんじゃないか」と、ネガティブに解釈します。
その解釈が「自動的に」起こるため、本人は「そう思った理由」を、きちんと説明することができません。
「なんとなく、そう感じた」というだけです。
自動思考ループの構造
ネガティブな自動思考には、典型的な「ループ構造」があります。
【きっかけ】状況が起こる
↓
【自動思考】ネガティブな解釈が浮かぶ
↓
【感情】不安、恐怖、自己嫌悪などの感情が起こる
↓
【行動】その感情に基づいて行動する(避ける、防御する、など)
↓
【結果】その行動の結果が、もともとの自動思考を「確認する」
↓
【強化】ネガティブな自動思考が、さらに強化される
↓
【ループ】また、次の同じような状況で、同じ回路が発火する
この「ループ」が重要なんです。
なぜなら、その人の行動が、もともとの「自動思考」を「証拠づける」からです。
例えば:
自動思考:「自分は人間関係が下手だ」
この思考が浮かぶと、その人は、人間関係を避けるようになります。
その結果、人間関係の機会を逃してしまいます。
その結果、実際に「人間関係を深める経験」を持たないまま、時間が経ってしまう。
その人の人生には「孤立」という「事実」が生まれます。
その「事実」を見て、その人は「ああ、やっぱり自分は人間関係が下手なんだ」と確認してしまうわけです。
つまり、もともと「思い込み」だった「自分は人間関係が下手」という自動思考が、その人の避けるという行動を通じて、実際に「事実」になってしまったんです。
これが「自己成就予言」です。
実例:負の自動思考ループの追跡
田村さん(32才、営業)の例を見てみましょう。
子供時代
田村さんは、小学校の時、学校での発表で失敗しました。緊張して、言葉をうまく言えませんでした。
その時、クラスメイトが、くすくす笑いました。
その瞬間、田村さんの脳に「人前で話すことは、失敗して、笑われることだ」という「危機察知回路」が作られました。
大人になった後
田村さんは、営業という仕事をしています。営業の仕事では「クライアントの前でプレゼンテーションをする」ことが必須です。
ループの発生
毎回、プレゼンテーションの日が近づくと、以下のループが発生します:
- きっかけ:プレゼンテーションの予定が入る
- 自動思考:「またやらかすんじゃないか」「クライアントに笑われるんじゃないか」
- 感情:強い不安と恐怖
- 行動:その不安に対応するため、異常なほど準備をしたり、逆に、回避的になったり(「体調が悪い」と言って、同僚に譲るなど)
- 結果:過度な準備と、余裕のない状態での発表。その結果、実際に、多少のミスが起こる。
- 強化:「ああ、やっぱり自分はプレゼンで失敗する人間なんだ」という確認
このループが、何回も、何回も繰り返されるため、田村さんは「自分は人前で話すことが下手だ」という「事実」を、無意識のうちに、作り続けているわけです。
自動思考ループの「トリガー」
興味深いことに、このループは、トリガー(引き金)によって、自動的に発火します。
つまり、田村さんの場合、その「トリガー」は「プレゼンテーション」という状況です。
その状況を見た瞬間に、潜在意識は「あ、また失敗の時間がやってくる」と認識し、その回路が自動的に発火するわけです。
他の例として:
- 親からのメール→「親は、また、自分に対して批判をするんじゃないか」という自動思考が発火
- 異性から連絡がない期間→「相手は、自分に興味をなくしたんじゃないか」という自動思考が発火
- 失敗をする→「ああ、やっぱり自分はダメな奴だ」という自動思考が発火
このトリガーは、非常に「敏感」になっています。
なぜなら、その回路が、何度も、何度も、発火されてきたから、その回路がますます「太く」「強く」なっているからです。
催眠的な反復パターン
ここで、重要な指摘があります。
このネガティブな自動思考ループは、実は「催眠的な反復パターン」なんです。
つまり、その人は、毎日、同じ思考を何百回も繰り返すことで、その思考を「一層深く」潜在意識に刻み込み続けているわけです。
これは、催眠療法で「正向的な暗示」を何度も繰り返すことで、それが潜在意識に刻み込まれるプロセスと、全く同じです。
ただ、この場合「繰り返される暗示」が「ネガティブ」だということです。
つまり、その人の人生は「毎日、自分に対する、ネガティブな自己催眠」をかけ続けているんです。
セルフワーク:あなたの自動思考ループを追跡する
紙とペンを用意してください。
ステップ1:繰り返される「自動思考」を見つける
あなたが、繰り返し経験する「自動思考」は何ですか?
朝、目を覚めた時に浮かぶ思考。特定の状況で浮かぶ思考。
できるだけ具体的に書き出してください。
例:
- 「また今日も失敗するんじゃないか」
- 「自分は誰にも愛されない」
- 「この仕事は自分には無理だ」
ステップ2:その自動思考の「トリガー」を見つける
その思考が浮かぶ時、どんな状況ですか?
- 仕事の朝?
- 特定の人間関係?
- 新しいプロジェクト?
ステップ3:その自動思考から、どんな「行動」が生まれるか
その思考が浮かぶと、その後、あなたは何をしますか?
- 避ける?
- 過度に準備する?
- 相手に先手を打つ?
ステップ4:その「行動」の結果が、どう「思考」を強化するか
その行動の結果から、何が起こりますか?
そして、その結果から「ああ、やっぱり自動思考が正しかった」と思いますか?
ステップ5:このループを「断ち切るポイント」を見つける
このループの中で、あなたが意識的に「介入」できるポイントは、どこですか?
- 自動思考が浮かんだ時に、別の見方をする?
- その思考が浮かぶ前に、その「トリガー」に対処する?
- その思考に基づいた「行動」をしないことにする?
負の自動思考ループから脱出する催眠的方法
催眠セッションでは、このループを、いくつかの方法で、「リセット」することができます。
方法1:トリガーの脱感作
催眠の中で、そのトリガー(プレゼンテーション、など)を何度も、段階的に経験させます。
その過程で、神経系が「あ、これは実際には安全だ」と学習し、トリガーへの反応が、段々と薄れていくんです。
方法2:自動思考の「書き換え」
催眠の中で「実は、自分は人前で話すことができる」という、新しいメッセージが、潜在意識に直接、刻み込まれます。
この新しいメッセージが何度も繰り返されることで、古い「ネガティブな自動思考」が「新しい肯定的な自動思考」に置き換わり始めるんです。
方法3:神経系のリセット
催眠を通じた深いリラックス状態では、交感神経(緊張)が優位な状態から、副交感神経(リラックス)が優位な状態に切り替わります。
その状態が何度も体験されることで、神経系全体が「リセット」され、反応パターンが変わり始めるんです。
まとめ
負の自動思考ループ:
- 子供時代のトラウマから「危機察知回路」が作られる
- その回路が「自動思考」として、毎日、何百回も発火する
- その自動思考に基づいた「行動」が、もともとの思考を「証拠づける」
- その「証拠」が、さらに、その回路を強化する
- この「催眠的な反復パターン」が、人生全体を支配する
次の最後の記事では、この「無意識的自己催眠」から「目覚める」プロセスについて、見ていきます。