潜在意識・催眠術・本当の自分

12-03 | 世代間の思い込みの継承—親から子へ

はじめに

「うちの家は、貧乏な家だ」 「うちの家は、音楽とは無関係な家だ」 「うちの家は、幸せな恋愛をしない家系だ」

こういった「家族の思い込み」があります。

これらは、個人の思い込みではなく、家族システム全体の、世代間で継承される思い込みなんです。

そして、その継承は、驚くほど、強力で、自動的に起こります。

この記事では、その世代間継承のメカニズムを見ていきます。

家族システムの「無意識的な合意」

家族というシステムは、実は、複雑な「無意識的な合意」の上に成り立っています。

その「合意」の一つが「この家族は、こういう家族だ」という、家族のアイデンティティです。

例えば、「この家は、頭がいい家だ」という思い込みがあると、その家の全ての子供は、自動的に「自分は頭がいい人間である必要がある」という信念を持つようになります。

その信念が、彼らの人生を支配し、「勉強する」「成績を上げる」という行動を駆り立てるわけです。

一方、「この家は、貧乏だ」という思い込みがある家では、その子供たちは、自動的に「自分たちは経済的に成功しない」という信念を持つようになります。

その信念が、彼らの人生を支配し、「大きな夢を持たない」「経済的なチャンスを見逃す」という行動を駆り立てるわけです。

親から子へのメッセージの伝達

この家族の思い込みは、どうやって、子供に伝わるのか。

実は、ここでも「言葉」以上に「非言語的なメッセージ」が重要な役割を果たします。

例1:親の信念の「体現」

親が「うちは貧乏だから、娯楽にお金を使うことは許されない」という思い込みを持っていると、その親は、常に、そう行動します。

子供は、その親の行動を見ながら「ああ、この家は、そういう家なんだ」と学習するわけです。

言葉で「お金は大事だ」と言わなくても、親の行動そのものが、その信念を伝えているんです。

例2:親の説教と禁止

「この家は、教育を大事にする家だ」という思い込みがあると、親は、子供に対して「勉強をしなさい」と何度も言います。

その「何度も」という繰り返しが重要なんです。

その繰り返しの中で、子供の潜在意識は「勉強することが、この家の『正解』だ」と学習するわけです。

例3:感情と雰囲気

「この家は、不幸な家だ」という思い込みがあると、その家の中には、常に、絶望的な雰囲気が漂っています。

それは、言葉では表現されない、ただの「雰囲気」です。

でも、その雰囲気は、子供の潜在意識に、深く浸み込んでいくんです。

実例:「失敗する家族」から「失敗する親」へ

小川さん(45才、経営者)の例を見てみましょう。

小川さんの父親は、自営業をやっていました。でも、その事業は失敗しました。

その失敗の時のシーン—父親が暗い表情で帰ってくる。母親が心配そうにしている。子供たちは、何が起きているのか、わかりません。でも、「何か悪いことが起きている」という感覚は、伝わってくるんです。

その時点で、子供の小川さんの潜在意識には「事業というのは、失敗するものだ」「お金を失うことは、家族を不幸にする」という、強いメッセージが刻み込まれました。

その後、小川さんの父親は、その失敗から回復することなく、「これからは、失敗しないように、安定した給与の仕事をするしかない」という決定を下します。

その決定の背後には「自分は事業の才能がない」「失敗する運命にある」という思い込みがありました。

その思い込みは、子供の小川さんにも、伝わってしまったんです。

大人になった小川さんは、実は、優れた事業センスを持っていました。友人たちは「小川さんなら、起業できるよ」と励ましました。

でも、小川さんは、ずっと「自分は起業には向いていない」と思い込んでいました。

その思い込みの根源を辿ると、父親の失敗時代に、「失敗する家族だ」という潜在意識のメッセージが、ずっと、引きずられていたわけです。

45才の時、小川さんは、やっと、その思い込みに気づき、起業を決意します。

そして、実は、彼の事業は、成功したんです。

その時、初めて「ああ、自分たちは『失敗する家族』じゃなかったんだ。親の時代に失敗があったからって、自分の人生まで失敗する必要はなかったんだ」と気づいたわけです。

世代間継承の三つのメカニズム

世代間継承は、三つの主なメカニズムで起こります。

メカニズム1:直接的な教えと禁止

親が「男というのは、こうであるべき」「女というのは、こうであるべき」と、明確に教える。

その教えが、子供のアイデンティティになり、その子が、さらに、その子供に同じことを教えるという、循環です。

メカニズム2:モデリング(観察学習)

子供は、親の行動を見て学びます。

親が「失敗することは、恥だ」という信念で行動していれば、子供も、それを学び、自分の人生で、失敗を避けるようになります。

メカニズム3:感情的な伝染

子供は、親の感情や雰囲気に、非常に敏感です。

親が「人間関係は複雑で危険だ」という不安や恐怖を抱いていれば、子供も、その恐怖を感じ取り、人間関係に対する不安を、自動的に持つようになります。

これらの三つが、複合的に、作用することで、思い込みが、世代から世代へと継承されていくわけです。

「脚本」としての家族の物語

フロイト派の心理学では、子供時代に、無意識のうちに「人生脚本」が形成される、と考えられています。

つまり、各個人は、自分の人生を「脚本」のように生きているんだ、ということです。

その脚本は、子供時代の家族環境で、書かれます。

例えば「この脚本では、主人公は、常に、成功を求める。でも、常に、完璧にはなれない。その過程で、苦労する」という脚本を持った人は、その脚本に基づいて、人生を「演じ」ていくわけです。

そして、興味深いことに、その「脚本」は、世代から世代へと、型として、受け継がれることがあります。

親の人生脚本が「苦労する」なら、子供も、無意識のうちに「苦労する」というシナリオを、自分の人生に引き寄せてしまう。

セルフワーク:あなたの家族の思い込みを探る

紙とペンを用意してください。

ステップ1:あなたの家族について、一般的に言われていることを書き出す

「うちの家は…」という形で、できるだけ、たくさん書き出してください。

例:

  • 「うちの家は、音楽と無縁だ」
  • 「うちの家は、頭がいい家だ」
  • 「うちの家は、不幸な家だ」
  • 「うちの家は、社交的じゃない」

ステップ2:その思い込みを誰が、いつ、どのように伝えたか

その思い込みは、親が明確に言いましたか?それとも、親の行動から、学びましたか?

具体的なシーンを思い出してみてください。

ステップ3:その思い込みに基づいて、あなたが「しなかった」選択は?

その家族の思い込みがなかったら、あなたは、どう違う選択をしていたかもしれません。

例えば、「うちの家は、音楽と無縁だ」という思い込みがあれば、あなたは、たとえ音楽への興味があっても、それを追求しなかったかもしれません。

ステップ4:その思い込みを、次の世代に継承するか、選ぶ

もし、あなたが親になるなら(または、もう親なら)、あなたは、その家族の思い込みを、子供に伝えたいですか?

あるいは、その思い込みの「鎖を断つ」決定をしたいですか?

「鎖を断つ」というプロセス

この世代間継承の「鎖を断つ」ということは、ただの「個人の変化」以上の意味を持っています。

それは、家族システム全体に対する「反抗」であり、同時に「癒し」です。

小川さんが「自分は失敗する家族の者じゃない」と決定し、起業して成功した時、何が起きたか。

その成功は、彼だけの人生を変えたのではなく、彼の親にも、彼の兄弟にも、影響を与えたはずです。

親は「ああ、あの失敗の後でも、子供たちの人生は、別の道に行くことができたんだ」と気づく。

兄弟たちは「あ、俺たちも『失敗する家族』という制限から解放されていいんだ」と気づく。

つまり、一人が、その鎖を断つことが、家族全体の意識を変えるきっかけになるわけです。

催眠による世代間継承の解放

催眠セッションでは、この「家族の思い込み」に、直接、働きかけることができます。

セッションの中で「あなたの家族の思い込みは、あなたの思い込みではない」「あなたは、その思い込みから、自由に選択することができる」という新しいメッセージが、潜在意識に伝えられます。

その時、その人は、家族から「独立した個人」として、初めて、自分の人生を「設計」し直すことができるようになるんです。

まとめ

世代間の思い込みの継承:

  1. 家族システムは「無意識的な合意」の上に成り立っている
  2. その合意は「この家族は、こういう家族だ」という思い込みとして、存在する
  3. その思い込みは、言葉以上に、親の行動、雰囲気、感情を通じて、子供に伝わる
  4. 子供は、それを「事実」として受け取り、自分の人生を「設計」する
  5. 一人が、その鎖を断つことが、家族全体の意識を変えるきっかけになる

次の記事では、こうした思い込みから生まれる「負の自動思考ループ」について、見ていきます。つまり、どうやって、思い込みが、毎日の自動的な思考パターンを生み出し、それが、人生を支配するのか、ということについてです。