11-03 | 「〇〇であるべき」という信念の正体
はじめに
「女性らしくあるべき」 「男性は強くあるべき」 「子供は親の期待に応えるべき」 「成功者であるべき」 「完璧であるべき」
こういった「〇〇であるべき」という信念—これが、人生を縛る最も強い枷の一つです。
でもね、ここで大事なのは、これらが「良い教育」「良い躾」だと思われているってことなんです。親も学校も社会も「〇〇であるべき」という価値観を子供に植え付けることを「教育」だと思ってるわけです。
その結果、多くの人は、本来の自分を手放して、「〇〇であるべき自分」を演じるようになっていく。そして、その「演じている自分」と「本来の自分」のズレから、内的な葛藤や、深い違和感が生まれるんです。
「べき」の根源
「〇〇であるべき」という信念は、どこから来ているのか。
端的に言うと:
親や社会が「こういう子供なら、愛する」「こういう人間なら、価値がある」という条件を、子供に与えた結果
子供にとって、親からの愛情と承認は、生き死にの問題です。植物にとって水と日光が必要なのと同じように、人間の子供にとって、親からの愛と承認は、生存に関わる必須要素なんです。
だから、子供は、親が愛してくれる「条件」を必死に探り、その条件を満たそうとするわけです。
親が「成績が良い子が良い子だ」というメッセージを送れば、子供は成績を上げることに全力を尽くします。親が「泣いてはいけない」というメッセージを送れば、子供は感情を抑圧することを学びます。親が「自分のことより他者を優先する」というメッセージを送れば、子供は自分の欲求を後回しにすることを習慣化させます。
これらが繰り返されていく過程で、子供の中に、深く根付いた「〇〇であるべき」という信念が形成されるんです。
「べき」が問題になる理由
「〇〇であるべき」という信念が問題なのは、それが:
- 現実と常に衝突する
- 本来の自分を否定し続ける
- 自動的に、反射的に動く
- 自分で気づきにくい
この4つの特徴を持っているからです。
具体的に見てみましょう。
問題1:現実との衝突
「完璧であるべき」という信念を持っている人が、失敗することは避けられません。人間は必ず失敗します。完璧な人間は存在しません。
でも、その信念を持っている限り、その人の人生は、常に「現実(失敗している自分)」と「べき(完璧であるべき自分)」の衝突の中にあります。
その結果、自責感、罪悪感、不安が常に付きまとうことになるんです。
問題2:本来の自分の否定
「女性らしくあるべき」という信念を持っている女性が、本来は活発で、冒険的で、論理的な性質を持っていたとします。
その女性は、自分の本来の性質を抑圧して、「女性らしさ」を演じることに、人生のエネルギーを使わなければいけなくなります。
その結果、その女性は、自分の人生を生きていない、という状態になるんです。生きているのは「〇〇であるべき自分」—それは本来の自分ではない架空の人物です。
この状態が長く続くと、その人は「本当の自分って何なんだろう」という深い迷宮に迷い込むようになります。
問題3:自動的な動き
「〇〇であるべき」という信念は、潜在意識に深く刻まれているため、自動的に、反射的に動きます。
例えば、「母親はいつも献身的であるべき」という信念を持っている母親は、子供のために自分を完全に献身させることが「良い母親」だと思い込んでいます。
だから、自分の体調が悪い時も、気分が落ち込んでいる時も、子供のために食事を作り、世話をします。自分の欲求は後回しです。
この状態が常態化すると、その母親は、自分の心身を削り続けることになり、最終的には心身の不調が起こるわけです。でも、その時でさえ、「良い母親であるべき」という信念は動き続けています。
問題4:自分で気づきにくい
ここが、最も厄介なポイントです。
「完璧であるべき」「成功であるべき」「親孝行であるべき」—こういった信念は、社会的には「良い信念」だと評価されています。
だから、その信念を持っている人自身も「これは正しい、良い信念なんだ」と思い込んでしまうんです。
その結果、「この信念が、自分を苦しめているんじゃないか」という疑問が、なかなか湧き出してこないわけです。
「べき」のバリエーション
では、どんな「べき」が、人生を縛ることになるのか。よくあるパターンを見てみましょう。
ジェンダー関連の「べき」
- 「女は静かで、従順であるべき」
- 「男は強く、感情を出さないであるべき」
- 「女は外見で価値が決まるべき」
- 「男は経済力で価値が決まるべき」
成績・能力関連の「べき」
- 「学生は勉強で成功すべき」
- 「大人は経済的に成功すべき」
- 「転職するなら、前職より良い職に就くべき」
- 「親の期待以上の成果を出すべき」
家族・人間関係関連の「べき」
- 「子供は親に従うべき」
- 「親は子供のために献身すべき」
- 「妻は夫を支えるべき」
- 「友人には裏切られないべき」
- 「恋人とは心が通じているべき」
人格・行動関連の「べき」
- 「いつも前向きであるべき」
- 「常に自分をコントロールすべき」
- 「自分の欲求は我慢すべき」
- 「他者を優先すべき」
- 「完璧であるべき」
これらの「べき」が、一つや二つではなく、複数、重なっていることが多いんです。
「完璧であるべき」「親孝行であるべき」「いつも前向きであるべき」—これらが同時に動いている場合、その人の人生は、相当なストレスの中にあることになります。
「べき」と自己催眠の関係
ここで、重要な指摘があります。
「〇〇であるべき」という信念は、実は、自動的に繰り返される、自己暗示の形態なんです。
朝、目を覚ました時から、その人は、無意識のうちに、このメッセージを自分に何度も繰り返します:
「今日も完璧にやらねば」 「自分の感情は抑えて、相手に合わせよう」 「失敗してはならない」
これらのメッセージが、一日の中で、何百回、何千回と繰り返される。
これって、まさに、自己催眠のプロセスと同じなんです。
催眠というのは、繰り返されるメッセージが、潜在意識に深く刻まれていくプロセスです。
だから、「〇〇であるべき」という信念を持って生活すること自体が、一種の「ネガティブな自己催眠状態」なんです。
その催眠状態から抜け出すためには、また別の、「新しい信念の自己催眠」が必要になってくるわけです。
もちろん、それは「自分は〇〇であるべき」という形ではなく、「自分は〇〇でいい。完璧じゃなくていい。失敗してもいい。自分らしく生きていい」という、新しいメッセージの繰り返しなんです。
実例:完璧主義の形成と影響
山田さん(42才、企業経営者)の例を見てみましょう。
子供の頃、親は企業経営者で、「成功」を強く価値観としていました。親の言葉は「お前も、いずれ経営者になるんだ。そのためには、完璧に勉強しなきゃ駄目だ」
山田さんは、この期待に応えるべく、完璧な成績を保ちました。大学も一流大学に行き、企業に入社して、さらに成績を上げ、やがて起業して経営者になりました。
社会的には、成功した人間です。でも、本人は常に不安でした。「ここまで来たのに、これからどうやって維持するんだ」という恐怖。「もし失敗したら」という不安。
山田さんの「べき」は、単なる「成功であるべき」ではなく、「親の期待を常に超えるべき」「失敗は許されない」「自分の価値は成果だけで決まる」という、複数の「べき」が重なっていたんです。
その結果、どうなったか。
彼は、事業を拡大し続けました。本来、十分な収入があるのに、さらに大きな目標を立てて、それに向かって走り続けました。
睡眠時間は少ない。プライベートの時間は少ない。家族との時間も少ない。でも、やめられない。「完璧であるべき」「成功であるべき」というプログラムが、自動的に走り続けているから。
40才を超えて、やっと彼は気づきました。「俺は何のために生きてるんだ?」という根本的な疑問。
実は、親は既に亡くなっていたんです。でも、親からの期待という「べき」は、親の死後も、彼の中で生き続けていたんです。
セルフワーク:あなたの「べき」を見つける
紙とペンを用意してください。
ステップ1:あなたの行動パターンを観察する
普段、あなたが行っている行動の中で、「これは、本当に自分が望んでいることなのか?」と感じるものを、3つ挙げてみてください。
例:
- 毎週、両親に会う
- 仕事をいつも完璧にやる
- 人前では常に明るくいる
ステップ2:その行動をしない場合、どんな感情が起こるか?
その行動をやめたら、どんな感情が出てきますか?
不安?罪悪感?恐怖?怒り?
その感情を正直に感じてみてください。
ステップ3:その感情の根底にあるメッセージは?
その感情の背後には、どんなメッセージが隠れていますか?
「自分は〇〇であるべき」という形で、書き出してみてください。
例:
- 「娘は両親に尽くすべき」
- 「社会人は完璧であるべき」
- 「自分は常に前向きであるべき」
ステップ4:そのメッセージは、本当に自分のものか?
その「べき」は、あなたが自分の人生を生きるために必要なものですか?それとも、親や社会から植え付けられたものですか?
もし、後者だとしたら、それは、あなたの人生を支配する「他人のプログラム」なんです。
「べき」と催眠
催眠セッションでは、このような「べき」に、直接、働きかけることができます。
例えば、セッションの中で「あなたが本当に望む人生は?」と問いかけられて、その答えを、催眠の深い状態で、イメージの中で実際に体験することができます。
「完璧に仕上げる必要のない人生」「失敗しても大丈夫な人生」「自分らしく生きる人生」—そういう人生が、どんな感じなのか、実際に、感覚的に、体験することができるんです。
その体験が、潜在意識に新しいプログラムを書き込むんです。
「〇〇であるべき」というネガティブな自己催眠から、「自分はそのままでいい」というポジティブな自己催眠へのシフト。
それが起こり始めるんです。
まとめ
「〇〇であるべき」という信念は:
- 親や社会からの「愛情と承認の条件」から生まれる
- 本来の自分を否定し、架空の「〇〇であるべき自分」を演じさせる
- 自動的に、反射的に、一日の中で何百回も繰り返される「自己催眠」である
- 社会的には「良い信念」だと評価されるので、気づきにくい
次の記事では、こうした「べき」が、トラウマとどう関連するのか、そして、トラウマとインナーチャイルドの関係を、深く掘り下げていきます。