潜在意識・催眠術・本当の自分

10-02 | なぜ催眠で「自分が見える」のか

あなたは、「自分のことが、自分でいちばんわからない」と感じたことはないでしょうか。

不思議なものです。一日中、誰よりも長く一緒にいるのは、自分自身のはず。それなのに、「なぜ自分はあんな反応をしたのか」「どうしてこの人にだけイライラするのか」が、まるでわからない。

他人のことなら、案外わかるのに。自分のことだけ、霧がかかったように見えない。

そう感じているなら、それはあなただけではありません。私のもとを訪れる方の多くが、同じことを口にします。「自分が、わからないんです」と。

私は催眠術師・ヒプノセラピストとして、これまで3000件以上の催眠を行ってきました。その経験から、はっきりと言えることがあります。催眠という技術は、「自分が見える」状態を作り出すことができる。なぜそれが可能なのか。今日は、その仕組みを丁寧にお話ししていきます。

「自分が見えない」のには理由がある

まず、なぜ自分のことが見えないのか。ここから考えていきましょう。

理由は、決してあなたの能力が低いからではありません。これは、人間の心の構造そのものに原因があります。

私たちの心には、「防衛機制」という働きがあります。難しい言葉ですが、要するに「自分を守るための仕組み」です。

たとえば、思い出したくない辛い記憶。認めたくない自分の弱さ。受け入れがたい本音。こういったものを、心は自動的に隠してしまいます。見えないところに、そっとしまい込むのです。

これは、あなたを守るための優しい仕組みです。ですが、同時に、これが「自分が見えない」原因にもなっています。

つまり、自分が見えないのは、あなたの心が、見えないように工夫しているからなのです。

顕在意識という「フィルター」

もう一つ、大きな理由があります。それが、顕在意識というフィルターの存在です。

普段のあなたは、顕在意識で世界を見ています。論理的に考え、常識で判断し、「こうあるべき」という基準で物事を測る。この働きは、社会で生きていくために、とても大切なものです。

ですが、このフィルターは、本音を通しません。

たとえば、あなたの心の奥が「本当はこの仕事をやめたい」と叫んでいたとします。ですが、顕在意識はこう言います。「いや、生活があるんだから、そんなこと考えてはいけない」。

こうして、本音はフィルターに引っかかり、表に出てこられなくなる。あなた自身でさえ、その本音に気づけなくなるのです。

考えてみてください。窓ガラスが汚れていると、外の景色がよく見えませんよね。顕在意識というフィルターも、同じです。「こうあるべき」という汚れが厚くなるほど、本当の自分が見えなくなっていくのです。

催眠はフィルターを一時的に下げる

では、催眠は何をするのか。

催眠は、この顕在意識というフィルターを、一時的に下げる技術です。

誤解のないようにお伝えしますが、フィルターを「壊す」のではありません。「少しだけ脇によける」のです。フィルターが脇によけられると、その奥にあった本音や記憶が、自然と表に出てこられるようになります。

私はよく、こんなたとえを使います。

普段の心は、にぎやかな会議室のようなものです。顕在意識という声の大きな人が、ずっとしゃべり続けている。深層意識の小さな声は、その大声にかき消されて、誰にも聞こえません。

催眠は、その声の大きな人に、少しだけ静かにしてもらう技術です。会議室が静まると、それまで聞こえなかった、小さな、でも本当に大切な声が、ようやく聞こえてくる。

それが、催眠で「自分が見える」ということの正体です。

「見える」と「変わる」はつながっている

ここで、とても大切なことをお伝えします。

自分が「見える」と、人は「変われる」のです。

なぜでしょうか。それは、問題の多くが、「見えていないこと」から生まれているからです。

たとえば、原因のわからないイライラ。理由のわからない不安。なぜか繰り返してしまう失敗。これらは、根っこにあるものが見えていないから、対処のしようがない。やみくもに対処しても、また同じことが起きてしまいます。

ですが、根っこが見えた瞬間、状況は一変します。「ああ、こういうことだったのか」とわかると、心は自然とほどけていく。見えるだけで、半分は解決したようなものなのです。

ですから、催眠の目的は、何かを「植え付ける」ことではありません。すでにあなたの中にあるものを、「見えるようにする」こと。それが本質なのです。

30代の主婦・田中さんのセッション

具体的なお話をしましょう。

30代の主婦・田中さん(仮名)は、「子どもにきつく当たってしまう自分が嫌だ」という悩みを抱えていました。

頭ではわかっている。子どもには優しくしたい。それなのに、ある場面になると、どうしても感情が抑えられなくなる。「私は母親失格だ」。田中さんは、ご自分をそう責めていました。

その気持ち、痛いほどわかります。ですが、私は思いました。これは「性格」の問題ではなく、「見えていない何か」の問題ではないか、と。

催眠状態に入っていただき、私は問いました。「お子さんのどんな様子を見たとき、いちばん感情が動きますか」。

田中さんの深層意識が答えました。「子どもが、わがままを言って、泣きわめいているとき」。

さらに私は問いを重ねました。「その光景を見たとき、あなたの中で何が起きていますか」。

すると、思いがけない記憶が浮かんできました。田中さん自身が子どもの頃、わがままを言うことを一切許されなかったのです。泣けば叱られ、欲しいものを口にすれば責められた。「わがままは、悪いこと」。その思い込みが、深く刻まれていました。

だから、自分の子どもがわがままを言うと、深層意識が激しく反応していたのです。「それは許されないことだ」と。子どもを叱っていたようで、田中さんは、無意識に、過去の自分を叱っていたのです。

この構造が「見えた」とき、田中さんは、はっとした表情になりました。「私は、子どもに怒っていたんじゃなかった」。

それからの田中さんは、変わっていきました。子どものわがままを見ても、以前ほど感情が爆発しなくなった。なぜなら、その反応の正体が「見えた」からです。見えてしまえば、もう振り回されなくなるのです。

あなた自身でできる「自分を見る」練習

催眠を受けなくても、自分を見るための練習はできます。一つ、紹介しましょう。

「感情が大きく動いた瞬間」を観察する練習です。

1日の終わりに、ノートを開いてください。そして、その日、感情が大きく動いた場面を一つ、思い出します。強くイライラした、悲しくなった、なぜか涙が出た。どんな感情でもかまいません。

その場面について、次の3つを書き出してください。

  1. 何が起きたか(事実だけを、客観的に)
  2. どんな感情になったか(その時の正直な気持ち)
  3. なぜそう感じたと思うか(思いつく限り、深く)

特に大切なのが、3つめです。「なぜ」を、一度で終わらせないでください。「それは、なぜ?」「では、それはなぜ?」と、3回は掘り下げてみてください。

掘り下げていくと、思いがけない本音や、昔の記憶につながることがあります。それが、あなたが「自分を見た」瞬間です。

これを2週間も続けると、自分の心の動き方のパターンが、少しずつ見えてきます。ぜひ、今日から始めてみてください。

最初のうちは、「なぜ」の答えが思いつかないかもしれません。それでもかまいません。「わからない」と書くだけでも、立派なワークです。大切なのは、自分の心に問いかける習慣を持つことです。

この習慣が身につくと、感情に振り回される前に、一歩引いて自分を眺められるようになります。「あ、今、自分はこのパターンに入っているな」と気づけるようになる。気づけるだけで、感情の波は、ずいぶん小さくなっていきます。これは、催眠を受けなくても、あなた一人で育てていける力なのです。

自分が見えると、人生はやさしくなる

最後に、お伝えしたいことがあります。

自分が見えるようになると、人生は、ずっとやさしくなります。

なぜなら、見えない自分に振り回されることが、減っていくからです。「なぜか苦しい」が、「ああ、こういう理由で苦しいんだ」に変わる。その違いは、とても大きい。

私が3000件以上の催眠を行ってきて、確信していること。それは、人は誰しも、自分の中に答えを持っているということです。ただ、それが見えていないだけ。催眠は、その答えに光を当てる技術にすぎません。

あなたの中にも、必ず答えがあります。今は見えていなくても、それは確かにそこにあります。

ですから、どうか焦らないでください。一歩ずつ、自分を見ていけばいい。見えた分だけ、あなたの心は軽くなり、人生はやさしくなっていきます。

その旅を、私はいつでも応援しています。