06-04 | 「今ここ」という瞬間の力—催眠が教えてくれること
あなたは今、本当に「今ここ」にいますか?
少し、おかしな質問に聞こえるかもしれません。体は確かにここにある。でも、あなたの心は、本当に「今この瞬間」にあるでしょうか。
多くの人の心は、実は、ここにありません。
過去の後悔を反すうしている。未来の不安を心配している。気づけば、頭の中は、過ぎ去ったことか、まだ来ていないことで、いっぱいになっている。
私は催眠セッションを通じて、のべ3000件以上の催眠を行ってきました。その中で、ほとんどの人が「今ここ」を生きられていないという事実に気づきました。
今日は、この「今ここ」という瞬間が持つ、大きな力について、お話ししていきます。
苦しみは、いつも「今」以外にある
少し考えてみてください。
あなたが何かに悩んでいるとき、その悩みは、いつのことでしょうか。
- 「あのとき、ああすればよかった」(過去)
- 「これから、どうなるんだろう」(未来)
ほとんどの悩みは、過去か未来にあります。
では、「今、この瞬間」に、苦しみはあるでしょうか。
不思議なことに、本当の意味での「今この瞬間」だけを見つめると、そこには、ほとんど問題がないのです。
今、あなたは呼吸をしている。今、体はここにある。今、この文章を読んでいる。それだけ。今この瞬間そのものは、たいてい、静かで、平穏なのです。
苦しみのほとんどは、頭が作り出す「過去」と「未来」の物語の中にあります。
ですから、心を「今ここ」に戻すことは、苦しみから抜け出すための、とても強力な方法なのです。
頭は、過去と未来を行き来する
私たちの頭は、放っておくと、絶え間なく動き続けます。
朝起きた瞬間から、「今日はあれをやらなきゃ」「昨日のあの言い方、まずかったかな」と、思考が止まりません。
これは、人間の脳の性質です。
脳は、過去から学び、未来に備えるようにできています。それ自体は、生きていくために必要な機能です。
ですが、現代の私たちは、この機能が「過剰」になっています。
必要以上に過去を悔やみ、必要以上に未来を心配する。そうやって、貴重な「今この瞬間」を、思考に奪われ続けているのです。
30代の会社員・Gさんのセッションでのことです。
Gさんは、休日でさえ、仕事のことが頭から離れないと言っていました。子どもと公園にいても、食事をしていても、頭の中は来週の会議のことでいっぱい。「自分は、今を生きていない気がする」と、彼は言いました。
これは、Gさんだけの問題ではありません。多くの現代人が、同じ状態にあります。
催眠は「今ここ」に戻る体験
ここで、催眠の話をしましょう。
実は、催眠状態というのは、「今ここ」に深く戻る体験でもあります。
催眠の中で、人は、過去や未来へと走り回る思考を、いったん手放します。私の声に意識を向け、自分の呼吸に意識を向け、体の感覚に意識を向ける。すると、頭の中の「おしゃべり」が、静かになっていくのです。
その静けさの中で、人は、久しぶりに「今この瞬間」に存在することができます。
先ほどのGさんも、催眠の中で、初めて、頭の中が静かになる体験をしました。
セッションの後、彼はこう言いました。「こんなに心が静かなのは、何年ぶりだろう」。
そして、こう続けました。「自分が、いかに今を生きていなかったか、よくわかりました」。
催眠は、思考に支配された心を、「今ここ」へと連れ戻す手助けをします。そして、その静けさの中にこそ、本当の安らぎがあることを、体験させてくれるのです。
「今ここ」には、すべてがある
「今ここ」を生きると、何が変わるのでしょうか。
まず、不安が減ります。
不安は、未来への思考から生まれます。「今この瞬間」だけに意識を向けていると、不安が入り込む隙がなくなるのです。
そして、人生の豊かさを感じられるようになります。
40代の女性・Hさんは、いつも「次、次」と先のことばかり考えて、目の前のことを味わえない人でした。
ですが、「今ここ」に意識を向ける練習を続けた結果、彼女は、変わっていきました。
朝のコーヒーの香り。子どもの笑い声。窓から差し込む光。これまで素通りしていた、何でもない瞬間の中に、こんなにも豊かさがあったのか、と気づいたのです。
Hさんは、こう言いました。「幸せって、特別な場所にあると思っていました。でも、ずっと、今この瞬間の中にあったんですね」。
これが、「今ここ」の力です。
幸せは、未来の達成の中にあるのではありません。今、この瞬間を、しっかりと味わうことの中にこそ、あるのです。
「今ここ」を生きると、人にも優しくなれる
「今ここ」に意識を向けることには、もう一つ、大きな恵みがあります。
それは、目の前の人を、本当に大切にできるようになることです。
考えてみてください。
誰かと話しているとき、あなたの心は、本当に、その人に向いているでしょうか。
「次に何を言おうか」と考えている。「この後の予定」が気になっている。スマホの通知が気になって、上の空になっている。
そうやって、心がよそにあるとき、私たちは、目の前の人と、本当の意味で、つながれていません。
50代の女性・Rさんは、家族との会話が、いつも上の空でした。子どもが話しかけても、頭は別のことでいっぱい。「ちゃんと聞いていなかった」と、後で後悔することが、よくあったそうです。
催眠を通じて「今ここ」に意識を向ける練習を続けた結果、Rさんは変わりました。
子どもの話を、本当に「聞く」ようになったのです。相手の目を見て、言葉に、心を向ける。
すると、子どもとの関係が、ぐっと深まりました。子どもが、「お母さん、最近、ちゃんと話を聞いてくれるね」と言ってくれたそうです。
「今ここ」を生きることは、自分の心を穏やかにするだけではありません。目の前の大切な人との、つながりも深めてくれるのです。
なぜなら、人を本当に大切にできるのは、心が「今ここ」にあるときだけだからです。
あなた自身でできるセルフワーク
ここで、あなた自身で、いつでもできる、シンプルな練習をお伝えします。
一つ目は、「呼吸に戻る」練習です。
今、頭の中があれこれ考えていることに気づいたら、いったんそれを置いて、自分の呼吸に意識を向けてください。
息を吸う。息を吐く。そのことだけに、意識を向ける。
たった3回の呼吸でいいのです。それだけで、あなたの心は、「今ここ」に戻ってきます。
二つ目は、「五感を使う」練習です。
今、聞こえる音を、一つ見つけてください。 今、見える色を、一つ見つけてください。 今、感じる体の感覚を、一つ見つけてください。
五感に意識を向けると、頭の中のおしゃべりは、自然に静かになります。なぜなら、五感は、必ず「今この瞬間」とつながっているからです。
この二つの練習は、いつでも、どこでもできます。電車の中でも、仕事の合間でも。
ぜひ、一日に何度か、「今ここ」に戻る習慣をつけてみてください。
人生は、今この瞬間の積み重ね
最後に、大切なことをお伝えします。
人生というのは、結局のところ、「今この瞬間」の積み重ねです。
過去は、もう過ぎ去っています。未来は、まだ来ていません。あなたが実際に生きられるのは、いつも「今この瞬間」だけなのです。
ですから、今この瞬間を生きられない人は、結局、人生そのものを生きられないのです。
これは、決して大げさな話ではありません。
私が催眠を通じて見てきたのは、「今ここ」に戻った人たちが、人生そのものを取り戻していく姿でした。
不安に支配されていた人が、穏やかになっていく。何も感じられなかった人が、日常の中に豊かさを見つけていく。先のことばかり考えていた人が、目の前の人を大切にできるようになっていく。
催眠という技術は、その「今ここ」に戻る感覚を、深いレベルで体験させ、そして、日常でもそれを取り戻せるよう、手助けすることができます。
あなたの人生は、未来のどこかにあるのではありません。
今、この瞬間に、あります。
ぜひ、今、この文章から目を離したら、深く一度、呼吸をしてみてください。その一呼吸が、あなたを「今ここ」へと連れ戻してくれます。そこから、あなたの本当の人生が、始まります。