06-02 | 「自分らしさ」を求めることが、実は自分を縛っている
あなたは、「自分らしく生きたい」と思ったことはないでしょうか?
今の時代、あちこちで「自分らしさ」という言葉を耳にします。自分らしい働き方。自分らしいファッション。自分らしい生き方。とても素敵な言葉です。
ですが、私は催眠セッションの現場で、不思議なことに気づきました。
「自分らしくありたい」と強く願う人ほど、苦しんでいるのです。
私は催眠セッションを通じて、のべ3000件以上の催眠を行ってきました。その中で、「自分らしさ」という言葉が、実は人を縛る鎖になっている場面を、何度も目にしてきました。
今日は、この「自分らしさ」という言葉の落とし穴について、お話ししていきます。
「自分らしさ」はいつ生まれたのか
そもそも、あなたが「これが自分らしい」と思っているもの。それは、いつ、どこで生まれたのでしょうか。
少し考えてみてください。
「私は引っ込み思案だ」 「私は感情的な人間だ」 「私はリーダーには向いていない」
こうした「自分らしさ」の多くは、過去の経験から作られた思い込みです。
子どもの頃、人前で発表して笑われた。だから「自分は人前が苦手だ」と決めた。一度失敗したことを誰かに責められた。だから「自分は不器用な人間だ」と決めた。
つまり、あなたが「自分らしさ」だと信じているものの多くは、過去のたった数回の体験から作り上げた「設定」に過ぎないのです。
ところが、人はその設定を「これが本当の自分だ」と思い込みます。そして、その枠の中でしか生きられなくなっていきます。
ここに、最初の落とし穴があります。
「らしさ」を守ろうとすると動けなくなる
40代の会社員・Cさんのセッションでのことです。
Cさんは、「自分は内向的で、目立つことが嫌いな人間だ」と固く信じていました。だから、昇進の打診があっても、毎回断ってきたそうです。
「リーダーになるなんて、自分らしくない」
そう言って、彼はチャンスを手放し続けてきました。
ですが、深い催眠状態で、Cさんは小学生の頃の記憶にたどり着きました。学級委員に立候補したとき、同級生に「お前なんかが」と笑われた。その瞬間に、彼は「自分は前に出る人間ではない」と決めたのです。
たった一度の、子どもの頃の出来事。
それが、30年以上にわたって、彼の選択を縛り続けていました。
催眠の中で、Cさんは静かにこう言いました。「これは、僕が決めたことじゃなかったんだ」。
このように、「自分らしさ」という言葉は、しばしば「変わらないための言い訳」として使われます。
「それは自分らしくないから」と言えば、新しい挑戦をしなくて済みます。傷つかなくて済みます。ですが、その代わりに、あなたの世界は、どんどん狭くなっていくのです。
本当の自分は「固定された何か」ではない
ここで、大切なことをお伝えします。
本当のあなたは、固定された「キャラクター」ではありません。
私たちは、つい「本当の自分」というものが、どこかに一つ、決まった形で存在していると思いがちです。ですが、それは違います。
人は、状況によって、関わる相手によって、いくらでも違う面を見せます。
職場では真面目な人が、家では子どもとふざけている。普段は無口な人が、好きなことの話になると止まらなくなる。
そのどれもが、あなたです。
ですから、「これが自分らしい」と一つの形に決めつけることは、本当の自分を、ほんの一部に押し込めてしまうことなのです。
催眠の中で深層意識に触れると、人は驚くほど多様な自分の姿に出会います。普段は抑え込んでいた、優しさ。勇気。好奇心。そうしたものが、次々と現れてきます。
そのとき、多くの人がこう言います。「こんな自分もいたんだ」。
「らしさ」を手放したとき、自由になる
20代の女性・Dさんは、「私は人に頼れない、しっかり者の長女だ」という「らしさ」を抱えていました。
弱音を吐くことは、自分らしくない。人に甘えるのは、自分らしくない。そう思って、何でも一人で抱え込んでいたそうです。
ですが、その「らしさ」が、彼女を限界まで追い込んでいました。
催眠のセッションの中で、Dさんはこの「しっかり者」という鎧を、少しずつ手放していきました。すると、不思議なことが起きました。
セッションの後、彼女は初めて、職場の同僚に「ちょっと手伝ってほしい」と言えたそうです。
すると、相手は、嫌な顔一つせず、むしろ嬉しそうに手伝ってくれた。Dさんは「頼ってもよかったんだ」と気づいたのです。
彼女が手放したのは、「自分らしさ」という名の、自分を縛る鎧でした。そして、その鎧を脱いだとき、彼女は、もっと自由に、もっと楽に生きられるようになっていったのです。
「らしさ」は、人が貼ったラベルでもある
ここで、もう一つ、大切なことをお伝えします。
あなたの「らしさ」は、自分で決めたものだけではありません。まわりの人が貼った「ラベル」も、大きく影響しています。
「あなたは、しっかりしているね」 「あなたは、おとなしいね」 「あなたは、優しい子ね」
子どもの頃から、私たちは、こうした言葉を、たくさん浴びて育ちます。
そして、人は、まわりから期待された役割を、無意識に演じるようになります。「しっかり者」と言われ続けた人は、しっかり者であろうとします。「優しい子」と言われ続けた人は、優しくあろうとします。
それ自体は、悪いことではありません。
ですが、問題は、その「ラベル」が、自分の本当の気持ちと食い違ったときです。
本当は疲れているのに、「しっかり者」だから弱音を吐けない。本当は怒っているのに、「優しい人」だから本音を言えない。
そうやって、まわりが貼ったラベルに合わせて、自分を押し殺してしまう。これも、「自分らしさ」という名の縛りなのです。
50代の男性・Pさんは、「いつも穏やかで、怒らない人」と、まわりから思われていました。Pさん自身も、それが「自分らしさ」だと信じていたのです。
ですが、催眠の中で、彼は、長年抑え込んできた怒りに出会いました。「本当は、言いたいことがたくさんあったんだ」。
「穏やかな人」というラベルが、彼の本当の感情に、ふたをしていたのです。
このように、まわりが貼ったラベルも、私たちを、知らないうちに縛っています。
あなた自身でできる問い直し
ここで、あなた自身でできるセルフワークをお伝えします。
まず、紙とペンを用意してください。
そして、「私は〇〇な人間だ」という形で、自分について思っていることを、思いつくだけ書き出してみてください。
- 「私は飽きっぽい」
- 「私は人見知りだ」
- 「私は数字に弱い」
何でも構いません。10個ほど書いてみましょう。
書き終わったら、その一つひとつに、こう問いかけてください。
「これは、いつ、どこで決めたことだろう?」
すると、多くの場合、それが過去のある出来事に結びついていることに気づきます。子どもの頃の体験。誰かに言われた一言。たった一度の失敗。
そして、最後に、こう問いかけてみてください。
「もし、この『らしさ』がなかったら、私は何をしてみたいだろう?」
この問いに答えるとき、あなたの中に、これまで押し込めてきた本当の願いが、静かに顔を出すはずです。
「らしさ」から「ありたい姿」へ
私がお伝えしたいのは、「自分らしさを捨てなさい」ということではありません。
そうではなく、過去の体験で作られた「らしさ」に縛られるのではなく、これから「どうありたいか」に目を向けてほしいのです。
「自分らしさ」は、過去を向いています。 「ありたい姿」は、未来を向いています。
あなたは、過去の体験で決めた自分を、ずっと生き続ける必要はありません。今この瞬間から、新しい自分を選び直していくことができます。
それは、決して難しいことではありません。
「自分らしくない」と感じることを、あえて一つ、やってみる。それだけで、あなたの世界は少しずつ広がっていきます。
催眠という技術は、その「らしさ」がどこから来たのかに気づき、それを手放す手助けをすることができます。深層意識の中で、あなたを縛っている古い設定を、書き換えていくことができるのです。
あなたは、もっと自由になれます。
「自分らしさ」という言葉に、これ以上縛られなくて大丈夫です。本当のあなたは、一つの形に収まらないほど、豊かで、多様なものなのですから。
ぜひ、まずは一つ、「自分らしくない」ことに挑戦してみてください。その小さな一歩が、あなたを、本当の自由へと連れて行ってくれます。