05-03 | 思い込みが人生を支配する理由—無意識の自動操縦
あなたは、あなたの行動の何パーセントが「意識的な決定」であり、何パーセントが「無意識の自動操縦」であるかを知っていますか?
実は、私たちの行動の多くは、自分でも気づかないうちに、無意識によって動かされています。つまり、あなたが「これはいい決定だ」と考えているその決定も、実は無意識の思い込みによって既に操縦されているということです。この章では、思い込みが人生を支配する、その深い理由について、詳しくお伝えします。
無意識の自動操縦がなぜ起こるのか
あなたの脳は、毎秒1000万ビットの情報を処理することができます。ですが、意識できる情報は、そのうちのわずか40〜50ビット程度です。これほどの情報落差があるのに、なぜあなたは生きていられるのでしょうか?
答えは、脳が「自動操縦システム」を備えているからです。私自身も、毎日このシステムに助けられています。毎朝、歯を磨く時に「歯ブラシを右から左へ動かしよう」と考えますか?朝食を食べる時に「フォークをどの角度で持ったらいいか」と考えますか?いいえ。これらのことは、完全に無意識で起こっています。
この自動操縦システムは、極めて有用な機能です。もし、毎回の行動が全て意識的な決定を必要とするなら、あなたは毎日、朝、起きることすら難しくなるでしょう。精神的な疲労で倒れてしまいます。ですから、脳は、頻繁に繰り返される行動を、自動化してしまうのです。これを脳科学用語では「習慣化」と言います。
思い込みが自動操縦を支配する仕組み
ですが、この習慣化のシステムは、良い習慣だけでなく、悪い習慣も、自動化してしまいます。そして、思い込みは、この悪い習慣を自動化する最も強力な力なのです。
例えば、「自分は営業に向いていない」という思い込みを持っている人を想像してください。この思い込みがあると、営業の仕事をする時に、脳は以下のような自動反応を起こすようになります。
見込み客と会う前に、自動的に「この人は自分の話には興味ないだろう」と予測する。その予測が脳に決定を与えるので、その人は不安な状態で会議に臨みます。不安な状態では、声が小さくなり、視線が下がり、話し方がおどおどしてきます。その結果、見込み客は「この営業マンは自信がないな」と感じます。そしてその反応が、営業マンの予測を確認してしまいます。「やっぱり俺は営業に向いていない」。
このプロセス全体が、「思い込み」によって、完全に自動化されているのです。意識的な判断の余地がありません。脳が自動操縦を起動しているのです。
無意識の自動操縦による人生支配の5つのレベル
自動操縦が人生を支配する仕組みを、5つのレベルでお伝えします。
レベル1:認知の自動化 まず最初に起こるのは、「認知の自動化」です。思い込みを持っている人は、世界を見る時に、その思い込みのレンズを通して見ています。「自分は不運だ」という思い込みを持っている人は、人生の中で起こる全ての出来事を「不運」という色眼鏡で見ます。その色眼鏡を通すと、実は自分に有利な出来事も、「これはきっと一時的なものだ」と解釈されます。
レベル2:情動の自動化 次に起こるのは、「情動の自動化」です。認知が自動化されると、それに伴って、情動も自動化されます。例えば、「自分は嫌われている」という思い込みを持っている人が、会社で同僚に会うと、自動的に「嫌われているのではないか」という不安が湧き上がります。その不安は、思考を通さずに、直接体感として現れるのです。
レベル3:行動の自動化 認知と情動が自動化されると、その結果として、行動も自動化されます。「自分は人前では話せない」という思い込みを持っている人は、発表の場に来ると、自動的に目線を下げ、声が小さくなり、話を早く終わらせようとします。これは、意識的な判断ではなく、完全に自動化された反応です。
レベル4:人生選択の自動化 そして、これら認知、情動、行動が自動化されると、やがて「人生選択」も自動化されるようになります。「自分は野心がない」という思い込みを持っている人は、昇進の機会が来ても「自分にはできない」と自動的に判断し、断ってしまいます。この決定は、理性的な判断ではなく、無意識の思い込みによって既に決定されているのです。
レベル5:アイデンティティの自動化 最後に起こるのが、「アイデンティティの自動化」です。人生の多くの選択が自動化されると、やがてあなたは「自分とは何か」というアイデンティティ自体が、その思い込みで定義されるようになります。「自分は平凡な人間だ」という思い込みを持っている人の人生を見ると、学校選択から、職業選択から、配偶者選択から、全てが「平凡でいること」に向かっているのです。
自動操縦システムの図解
【思い込み】「自分は不向きだ」
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【認知の自動化】その観点でしか世界が見えなくなる
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【情動の自動化】不安、恐怖、無力感が自動的に湧き上がる
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【行動の自動化】縮こまった行動、回避行動が自動的に起こる
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【結果】期待通りの失敗が起こる
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【確認】「やっぱり不向きだ」という思い込みが強化される
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【人生選択の自動化】キャリア、人間関係、人生全体がこの思い込みに支配される
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【アイデンティティの自動化】「自分とはこういう人間である」という定義が固定される
実例シナリオ:次郎の「失敗する人間」という自動操縦
次郎は28歳です。彼は、「自分は何をやっても失敗する」という強い思い込みを持っています。この思い込みが、彼の人生全体を自動操縦しているのです。
子どもの頃、次郎の親は「この子は不器用だ」と言い続けました。小学校で何か失敗するたびに「やっぱりな」と言われました。【レベル1】の認知の自動化が起こり、次郎は全ての出来事を「自分の失敗」という観点で見るようになりました。
中学校に入ると、新しい環境での不安が、【レベル2】の情動の自動化を起こします。何かをする前に、自動的に「失敗するんじゃないか」という不安が湧き上がるようになったのです。
その不安が、【レベル3】の行動の自動化に繋がります。失敗を恐れるあまり、次郎は準備不足のまま挑戦したり、最初から挑戦を放棄したりするようになりました。その結果、実際に失敗が起こるのです。そして、その失敗は「やっぱり自分は失敗する人間だ」という思い込みを強化してしまいます。
社会人になると、【レベル4】の人生選択の自動化が起こります。営業職の募集を見ても「自分にはできない」と自動的に判断し、応募しません。新しいプロジェクトの話が来ても「自分では無理だ」と自動的に判断して、参加を断ります。
やがて、次郎は「自分とは失敗する人間だ」というアイデンティティ(【レベル5】)で定義されるようになりました。彼の人生は、この思い込みの自動操縦に完全に支配されているのです。
実は、次郎にも才能があります。ですが、その才能は、この自動操縦システムの中に完全に閉じ込められてしまっているのです。
セルフワーク:あなたの自動操縦を発見する
あなたの人生がどのように自動操縦されているのかを、発見してみましょう。
Q1. あなたが無意識に何度も繰り返している行動や反応は何ですか?
Q2. 【認知の自動化】:あなたはどのようなレンズを通して、世界を見ていますか?例えば、「人は裏切る」「努力しても無駄」などのネガティブな観点があれば、それを書いてください。
Q3. 【情動の自動化】:特定の状況(例えば、人前での発表、失敗した時、拒否された時)では、自動的にどのような感情が湧き上がってきますか?
Q4. 【行動の自動化】:その感情に反応して、あなたがとる自動的な行動は何ですか?(例:逃げる、守りに入る、攻撃的になる等)
Q5. 【人生選択の自動化】:あなたの人生の中で、無意識に回避し続けている選択肢や機会は何ですか?
Q6. 【アイデンティティの自動化】:「自分とは〇〇である」というアイデンティティが、その思い込みによって定義されているとしたら、あなたは本当は何者であり得るでしょうか?
Q7. もし、その自動操縦がオフになったとしたら、あなたはどのような決定をし、どのような人生を選ぶようになると思いますか?
まとめ:自動操縦は再プログラム可能
あなたの人生が無意識の思い込みによって自動操縦されているという事実は、一見、絶望的に思えるかもしれません。ですが、実は、そうではありません。重要なのは、この自動操縦は、「プログラムされた」ものだということです。プログラムされたものは、「再プログラム」することができるのです。
催眠は、この無意識の自動操縦システムに直接働きかけ、新しいプログラムをインストールする方法です。你の脳は、極めて可塑的です。一度形成された自動反応は、別の自動反応に置き換えることができるのです。
「自分は失敗する人間だ」という自動操縦は、「自分は挑戦する人間だ」という別の自動操縦に置き換えることができます。「人は裏切る」というレンズは、「人は信じられる」というレンズに置き換えることができます。
是非、催眠を通じて、あなたの無意識の自動操縦を、あなたにふさわしい自動操縦に作り替えていただきたい。その時、あなたの人生は、全く異なる方向に進み始めるのです。