潜在意識・催眠術・本当の自分

02-02 | 「催眠師に支配される」恐れについて—実例で解説

「催眠にかかると、催眠師に支配されてしまうんでしょ?」

この質問も、私のもとを訪れる多くの人からされます。

映画やテレビで見た、催眠師が相手を支配し、その人を操るシーン。そのイメージが、非常に強く、多くの人の心に刻み込まれています。

その結果、多くの人は、こう考えるのです。「催眠師になんてかかったら、自分は支配されてしまう」「自分の意志を失ってしまう」「自分は、催眠師の人形になってしまう」。

ですが、ここで、明確にお伝えする必要があります。

それは、現実ではありません。その恐れは、フィクションから生まれた誤解なのです。

なぜ「支配される」と思われるのか

では、なぜ、このような恐れが生まれるのでしょうか。

その理由は、二つあります。

第一に、映画やテレビの影響です。エンターテインメントの世界では、ドラマティックな描写が必要です。そのため、催眠は「恐ろしい支配の技術」として描かれるのです。それが、多くの人の心に、深い印象を残します。

第二に、「催眠師は強力な力を持っている」という思い込みです。催眠師は、「催眠」という技術を使って、相手の心に何かをすることができる。そう考えると、催眠師を「強い存在」と感じ、自分を「弱い存在」と感じてしまうのです。その力関係の不均等が、「支配される」という恐れを生み出すのです。

ですが、これは、誤解です。

催眠の本質は「相互的な関係」

では、催眠の本質とは、何か。

前の記事でもお伝えしましたが、それは「コンタクト」です。つまり、信頼に基づいた、相互的な関係です。

ここで、非常に重要な事実をお伝えします。

催眠は、被催眠者の「同意」なしには成立しません。

つまり、被催眠者が「この人を信頼する」「この技術を受け入れる」という同意がなければ、催眠は始まらないのです。

逆に言えば、被催眠者が「嫌だ」と思ったら、その瞬間に催眠状態から抜け出すことができます。その力は、被催眠者が持っているのです。

実例:本当は「支配」できない

では、実際の例を通じて、これを見てみましょう。

ある40代の男性・Iさんのセッションでのことです。

Iさんは、最初、非常に緊張していました。「本当に大丈夫なのか」「支配されるんじゃないか」という不安が、顔に表れていました。

そこで、私は、Iさんに対して、こう言いました。

「では、実験をしてみましょう。これから、催眠状態に入ってもらいます。その中で、私が『右手を上げてください』と言います。ですが、もし、あなたがそれが嫌だと思ったら、上げなくても構いません。大丈夫です。あなたの意志が優先です」。

Iさんは、その説明を聞いて、やや安心したようでした。

そして、催眠状態に入ったIさんに、私は指示しました。

「あなたは今、海辺にいます。波の音が聞こえます。心地よい風が吹いています。その中で、右手を上げてください」。

その指示に対して、Iさんは、ゆっくりと右手を上げました。

その後、私は別の指示をしました。

「では、その右手を、頭の上に持っていってください」。

Iさんは、その指示にも従いました。

ここまで聞くと、「ほら、催眠師の指示に従っているじゃないか。支配されているじゃないか」と思う人もいるかもしれません。

ですが、ここからが重要です。

私は、Iさんに、こう言いました。

「では、あなたが『嫌だ』と思うことをしてみます。左手も上げてください」。

その時、Iさんは、左手を上げませんでした。なぜか。

それは、Iさんが「この指示は嫌だ」と判断したからです。

その後、Iさんが催眠状態から覚めた後、彼にこう聞きました。

「左手は、なぜ上げなかったのですか」。

Iさんは、こう答えました。

「なんとなく『嫌だ』と思ったんです。上げたくないという気持ちが湧いてきたので、上げませんでした。催眠にかかっていても、自分の判断や感覚は働いているんですね。それがすごく驚きました」。

このエピソードが示しているのは、何か。

それは、催眠状態にあっても、被催眠者は「判断能力」を持っているということです。自分が「嫌だ」と思ったことは、拒否することができるのです。

つまり、催眠は「支配」ではなく、被催眠者の意志が常に尊重される、相互的な関係なのです。

「支配できない」理由を理解する

では、なぜ、催眠師は被催眠者を「支配」することができないのでしょうか。

その理由は、脳科学的に説明できます。

催眠状態では、前頭前皮質(批判的思考や意思決定を担当する脳領域)の活動が低下します。その結果、論理的な判断が弱まり、直感や感覚が優位になります。

ですが、それは「意志がなくなる」という意味ではありません。むしろ、「防衛機制が低下する」という意味です。

つまり、通常、私たちが「これは嫌だ」と感じた時、その感覚は、様々な理由づけや合理化を通じて、抑圧されることがあります。「でも、この人は専門家だから」「拒否すると失礼だから」そうした理由で、本当の気持ちを押し殺すのです。

ですが、催眠状態では、その理性的な防衛機制が低下します。その結果、「嫌だ」という本当の感覚が、より直接的に表れるのです。

言い換えれば、催眠状態とは、「自分の本当の気持ちがより透けて見える状態」です。それは、「支配される」ことではなく、むしろ「自分に正直になる状態」なのです。

催眠師が「支配」を目指さない理由

ここで、重要な視点を加えておきましょう。

たとえ、催眠師が被催眠者を「支配」しようとしたとしても、現実的には不可能です。

なぜなら、被催眠者は、いつでも催眠状態から抜け出す力を持っているからです。その力は、奪われることはありません。

その上、本当の催眠師は、被催眠者を「支配」しようとは思いません。むしろ、その反対です。

真の催眠師の目的は、被催眠者が「自分の人生の主人公になる」ことを支援することです。被催眠者が「自分の深層意識の声に気づき、その声に従って生きられるようになる」ことを目指しているのです。

それは、「支配」ではなく、むしろ「被催眠者の自律性を高める」ことなのです。

実例:支配とは正反対の体験

では、別の実例をお聞きしましょう。

ある30代の女性・Jさんのセッションでのことです。

Jさんは、多くの人間関係で「嫌だ」と言えない癖を持っていました。相手がどう思おうとも、自分の本当の気持ちを伝えることができなかったのです。その結果、ストレスが溜まり、人間関係も上手くいっていませんでした。

催眠セッションの中で、私は、Jさんに問いかけました。

「あなたの本当の気持ちは、何ですか」。

その問いに対して、催眠状態のJさんは、自分の本当の気持ちに気づきました。

「私は、自分の気持ちを大切にしていいんだ。『嫌だ』と言ってもいいんだ」。

その気づきを得た後、Jさんの人生は変わりました。人間関係で、より自分の気持ちを伝えられるようになり、ストレスが減りました。そして、より充実した人生を過ごすようになったのです。

ここで重要なのは、Jさんが「支配される」ことではなく、むしろ「自分の本当の気持ちに気づく」という体験をしたということです。

これが、催眠の本当の価値です。

「支配される」という恐れを手放す

もしも、あなたが「催眠師に支配される」という恐れを持っているなら。

ぜひ、その恐れを手放してください。

その恐れは、フィクションから生まれた、現実ではない恐れです。

現実は、こうです。

催眠は、決して「支配の技術」ではなく、「自分の本当の声を聞く手助け」です。催眠師は、決して「支配者」ではなく、「あなたの成長をサポートする人」です。

その関係の中で、あなたは、自分の人生をより主体的に生きることができるようになるのです。

つまり、催眠は、あなたを「支配する」のではなく、むしろ「自由にする」技術なのです。

ぜひ、その真実を理解した上で、催眠という体験に向き合ってください。

あなたの本当の力が、そこで目覚めます。